まだ間に合う!?MCI(軽度認知障害)という人生の分かれ道

10人に1人がボケている時代

現在、認知症と軽度認知障害(MCI)をあわせて800万人以上と言われています。

まもなく認知症+MCIが1000万人を超えることは確実と言われていて、高齢化と人口減により、日本人の10人に1人が少なからずボケている時代がやってきます。

「やべー、俺MCIって言われちゃったよ~」
「まじかよ!!俺はぜんぜんセーフだったよ」

こんな会話が会社の同僚との間で交わされていてもおかしくない気がします。

が、現実的に考えると、MCIと診断された人が、自分がMCIであることを正直に告白する可能性は低いかもしれません。

相当程度に脳の機能が落ちていることを告白することになるからです。仕事上の悪影響を考えるとなかなか言えないはずですし、ほとんどの会社員は言うべきでないと判断するでしょう。

MCIはMild Cognitive Impairmentの略です。軽度認知障害と訳されますが、認知症予備軍とも呼ばれますね。

予備軍というと聞こえ方によっては「危ないけど、まだ大丈夫」という印象も受けますが、認知機能が低下しているという意味では認知症と変わりません。あくまで程度の問題です。

つまり、全然大丈夫じゃないんです。

MCIの5つの条件

まずMCIというのはどんな状態なのか、MCIと診断される条件を紹介しておきます。

①認知機能低下について本人もしくは周囲からの申告がある。
②認知機能検査においても認知機能の低下が認められる。
③基本的な日常生活に支障はないが、複雑な物事には軽度の支障が出ることもある。
④認知機能は正常ではないが、認知症とは診断されない状態。

※参考文献:認知症疾患治療ガイドライン2010

ちなみに認知症と診断されるのは「日常生活に支障がある」程度まで認知機能が低下した状態です。

MCIという言葉の意味も年々変化しています。

従来、MCIはアルツハイマー型認知症の前段階というイメージで「記憶障害(物忘れ)」があることが必須条件とされていましたが、現在は記憶障害に限らず、判断力や時間空間感覚といった認知機能全般を対象に、認知機能の低下が起こっている状態とされているようです。

MCIの4つのタイプ

認知症の症状やタイプがいくつもあるように、MCIと言っても症状は様々です。

記憶障害の有無や認知機能の低下傾向によって、MCIは4つのタイプに分類することができます。

①記憶障害のみのMCI(Amnestic MCI Single-Domain)

物忘れなどの記憶障害があり、他の認知機能には問題がないタイプです。アルツハイマー型認知症に移行するリスクが高いと言われています。

②記憶障害および他の認知機能低下があるMCI(Amnestic MCI Multiple-Domain)

物忘れなどの記憶障害だけでなく他にも色々な認知機能の低下があるタイプです。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症への移行リスクが高いと言われています。

③記憶障害はなく、他の特定の認知機能低下があるMCI(Non-Amnestic MCI Single-Domain)

物忘れなどの記憶障害はないが、他の認知機能の一部が落ち込んでいるタイプです。前頭側頭型認知症への移行リスクが高いと言われています。

④記憶障害はなく、他の複数の認知機能低下があるMCI(Non-Amnestic MCI Multiple-Domain)

物忘れなどの記憶障害はないが、所々、まだら状に認知機能が低下しているタイプです。レビー小体型認知症、脳血管性認知症のリスクが高いと言われています。

※参考文献:河野和彦監修『認知症の辞典』

■MCIチェックリスト

MCIの診断は専門の医療機関で行いますが、そもそも医療機関を受診するべきかどうかを判断するためには、次のチェックリストが参考になります。

・1日や1週間の計画が自発的に立てられなくなった
・反応が遅く、動作がもたもたするようになった
・同じことを繰り返し話したり、尋ねたりするようになった
・無表情・無感動の傾向が見られるようになった
・ぼんやりしていることが多くなった
・生きがいを感じなくなった
・言葉が短くなった
・発想が画一的(貧困)になった
・仕事をテキパキと片付けられなくなった
・相手の意見を聞こうとしなくなった
・疲れやすくなった

参考文献『認知症は40歳からわかる』

ひとつでも当てはまればMCIの可能性があるそうです。もちろんMCIでない可能性もありますが、認知機能が低下していても自分では気づきにくいものです。

パートナーと一緒にチェックしたり、思い当たる節があれば専門医に相談してもよいかもしれません。

MCIの7つの診断方法

実際に医療機関ではどのようにMCIを診断しているのか?あくまで目安ではありますが、7つのポイントにまとめてみました。

・過去の病歴

例えばうつ病だったり甲状腺機能に問題があれば、誰でも認知機能が低下します。そのため、病気にかかっているかどうか、これまでの病歴などを考慮する必要があります。

・仕事や日常生活機能の変化

以前出来ていたことが出来なくなったといった機能的な『変化』を確認します。もともと暗記が苦手な人、計画が苦手な人、片付けが苦手な人もいるからです。逆に以前は整理整頓が好きだったのに、オフィスや部屋がぐちゃぐちゃになっていれば、何かしらの問題が起こっている可能性は高くなるでしょう。

・家族や友人からの申告

自分自身では変化に気づかなくても、他人から見れば明らかに『変わった』ということもあります。できるだけ家族や信頼できる友人の意見も検討材料に含めるべきだとされています。

・認知能力の検査

問診テストなどで、記憶力などの具体的な認知機能を検査します。長谷川式知能スケールやMMSE、時計描画テストなどが用いられるようです。

・感覚神経の検査

感覚や反応が鈍くなっていないか、バランス感覚が悪くなっていないかなども重要な要素です。手足の神経は脳と一対一でつながっているので、脳がトラブルを起こせば、手足の感覚や動作にも影響があるからです。

・精神状態の評価

認知機能が低下していても、うつ病など、認知症やMCI以外の原因がないかどうかを切り分ける必要があります。特に加齢により脳内の神経伝達物質は減少するので、うつ気味になりやすい傾向があります。

・画像診断

MRIやSPECTなどによって脳内を映像化することができます。MRIでは物理的な脳の画像、SPECTでは脳内の血流の状態を知ることができます。

素人からすると画像診断すれば何もかも分かりそうですが、実際にはそんなことはなく、各種の問診や検査と総合的に判断してはじめて正確な診断ができるようです。

携帯電話の中身の写真を見ても、携帯電話の動作異常が分からないのと同じことかもしれませんね。

MCIの診断にも色々なポイントがあることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

最近では雑誌にMMSEのテスト項目が載っていたり(ボケナインでも載せています^^;)しますが、自己診断を過信しすぎるのは禁物ですよ。

認知機能が日常生活レベルってどうなの?

MCIから認知症へ移行しないことが大事、と言われます。たしかに介護制度上はMCI状態であれば「自立」できているので、「まだ大丈夫」という判断かもしれません。

私はむしろMCIである段階で、本人にとっては大問題だと思っています。

考えてみると「日常生活に支障がない」からといって「仕事に支障がない」とは限りません。

コンビニでおにぎりを買ったり、1人でお風呂に入ることができても、説得力のあるプレゼンテーションを行ったり、ミスなく経理事務を行うことができるわけではありませんよね。セキュリティとか、かなり危ない気がします。

認知機能を英語力に置き換えて考えてみるとよく分かります。

「日常生活レベルの英語力」しかなければ、(英語での)複雑な仕事も、円滑なコミュニケーションも困難です。

「日常生活レベルの認知機能」しかなければ、複雑な仕事も、円滑なコミュニケーションも困難です。

実際、日常生活に支障はなくても、仕事や複雑な人間関係の維持構築には支障があるケースがほとんどでしょう。

そんな状態の人が400万人です。

はたして日本はどうなってしまうのでしょうか??と心配する前に、私の場合、まず自分の心配をしてしまいます。

もし私自身がMCIと診断される程度の状態になったら、多分仕事がありません。当然生活が成り立ちません。その先は、、あまり考えたくないのが本音です。

自分に余裕がなければ人に優しくなれない

こんな美談があります。

ある若年性アルツハイマーの患者さんがいました。彼の職場はとても暖かく、上司を中心に職場全員で協力して、定年退職まで20年以上、度重なるミスやトラブルをカバーしつづけたそうです。

ところで、私自身はそんな会社に勤めたことがありません。

アメリカで行われた実験では、人の親切心は時間的、金銭的な余裕に比例するという結果が出ています。

物忘れが増え、ミスを連発する社員に対して以前と同じ待遇を続け、周囲がミスをカバーする、そんな余裕のある会社は少ないでしょうし、さらに少なくなっていくでしょう。

自分がいつクビになるかも分からない状態で、人のミスをカバーし、仕事を手伝う余裕がある人がどれほどいるでしょうか。

以前は認知症と言えば、もっぱら介護の問題でした。今は介護だけではなく、自分の生活そのものを脅かすのが認知症でありMCIだと思います。

人生の分かれ道

認知症は早期発見が大切だと言われます。それ以上にMCIは早期発見が大切です。

なぜMCI段階での早期発見が大切なのかというと「まだ間に合う」可能性があるからです。

MCIに診断された後は毎年10%程度の人が認知症へと以降し、5年後には半数近くが認知症と診断されると言われています。つまり軽度の認知障害から本格的な認知障害へと症状が進行するということです。

一方でMCIから正常レベルに認知機能が『回復』する人も相当数います。条件により異なりますが14%~44%だそうです。

いくらかは希望が持てる数字ではないでしょうか?

認知機能の改善のために、生活習慣の改善、運動や脳トレなど本気になればやれることはかなりあります。

MCIの症状によっては認知症治療薬のアリセプト(ドネベジル)の少量投与などが有効なケースもあるそうです。サプリメントの使用による改善報告もあります。

いずれにせよ、現在の状態を正しく知ってはじめて未来の行動を変えることができます。

現在の状態を詳細に知るためには、「認知症外来」「物忘れ外来」などが設置されている医療機関で認知症専門医の診断を受けるのが一番です。

まとめ

「認知症は生活習慣病」という医師もいます。

少なくとも認知症はある日突然発症するものではなく、ほとんどの場合、20年以上という長い期間を経て発症する症状です。

早く気づくほど、短い期間と少ない努力で、認知機能の低下を防ぐこともできると言われています。

もちろん顔のシワやシミが一瞬で消え去ることはないのと同じで、10年や20年かけて進行した症状を一朝一夕に改善することはありません。

でも、何も知らなければ、その選択肢もありません。

そして、早ければ早いほど、多くの選択肢と可能性が残されています。